09
2014

民主主義に問題があるとしたら・・・ / シェイクスピア『コリオレイナス』 / ヘンデル「サラバンド」

CATEGORY社会
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民主主義に問題があるとしたら、ごく簡単に言って、こういうことだと思います。


人はそれぞれ普段の仕事で忙しくしていますから、大衆が全員、政治についての詳しく正しい知識や分析力、判断力を持っているなどというわけがありません。

そこで大衆は、詳しい人から話を聞いて、判断することになります。

ところが、詳しいとされている人たちも人間ですし、組織に属してもいますから、自分や自分の組織の立場や利害があります。

そして彼らは、しようと思えば、自分たちに都合の悪い事には触れないでおいて、都合の良い話を都合の良い仕方で伝えることができます。

人々は、何しろ自分の生活で多忙ですから、ざっと聞いて、もっともらしく聞こえる話があれば、それで大体の事は分かったと思って、それ以上調べません。

そして、何だか悪いらしい、というイメージの事に反対し、何だか良いらしい、というイメージの事に賛成します。

大衆に情報を与える立場の人たちが、意図的に筋書きを作り、選挙で大衆を動かして、自分たちの思い通りの世の中にしていっても、往々にして人々はそれに気付かず、皆が言っていることだから間違いないというくらいに思ってしまいます。



こうしたことは、古代ギリシャに民主制が始まった当初からの問題でした。

デマゴーグ(民衆煽動家)が世論を誘導して、衆愚政治に導くというのが、民主制(デモクラシー)の欠点だったのです。


              ◇


ヘンデルの「サラバンド」を付けておきます。

わりと皆さん、お聴きになっている曲ではないかと思います。




              ◇


今日、民主主義の問題に触れようと思ったのは、必ずしも選挙に際して思い出したから、というわけではなく、先日シェイクスピアの『コリオレイナス』(The Tragedy of Coriolanus)のお芝居を観たからです。

ちょうどこうしたテーマが描かれていて、さすがシェイクスピアは面白いと思いました。



ローマの為に武勲をあげた名将コリオレイナスは、誇り高く雄々しい英雄で、大衆に媚びへつらうことをよしとしません。

―― このお芝居を観て思いましたが、ローマ時代も、大衆に媚びて支持してもらうという事が大事だったのですね・・。

しかしコリオレイナスは、自分は本当にローマの為に功績をあげているから、へつらう必要などないと考えており、狡知とは無縁です。


その態度は、民衆には傲慢に見え、反感を買います。
民衆の代表である護民官たちは、自分たちの権益の拡大を謀り、コリオレイナスは権力を独占しようとしているのだ、と民衆たちに吹聴します。

護民官たちからの侮辱と、民衆の裏切りに激昂したコリオレイナスは、人々との対立を深めるのですが、これは護民官たちの陰謀で、その結果コリオレイナスは、反逆罪の汚名を着せられて告訴されてしまいます。

そして、ローマ人たちは愚かなことに、自分たちを本当に守る力のある人物を、ローマから追放してしまうのです。



その後、復讐心に燃えたコリオレイナスは、敵軍であるヴォルサイ人たちと結んでローマに攻め入ります。

護民官たちは恐れをなし、コリオレイナスの友人に頼みこんで和解を求めますが、もう後の祭りです。

民衆たちは口々に、「俺はコリオレイナスを追放までしなくて良いと思ったのに・・・」と言います。
(このセリフに、大衆の政治に対する無責任さが滲み出ているのですが、実際には、大衆のこの態度が政治を動かしてしまうわけです。)



祖国ローマを滅ぼすつもりでいたコリオレイナスでしたが、最後に祖国に残してきた母の嘆願に免じ、ヴォルサイ人たちに有利な条件とはいえ、独断でローマと和平を結びます。

しかし、ヴォルサイの都市に帰ったコリオレイナスは、裏切り者として命を落とさねばならなかったのでした。



これは衆愚政治と、その中で不当な悲劇に見舞われる英雄、というお話なのであって、単に大衆の民意が大事だという皮相なテーマではありません(・・・そのように解釈する人がいるようなのですけれどね)。

民意と言っても、それを作りだしている人たちがいる場合、本当の民意というものとは異なります。

この種の「民意」が国の為に必要な力をもつ人物を、繰り返し何度でも追放するような事をしてしまったら、最後は英雄の悲劇にとどまらないという事を、私たちはこのお芝居から学ばなくてはなりません。


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6 Comments

Violetta  

Ariane さま おはようございます^^
今日は政治のお話ですね。^^
もうすぐ選挙が近づいていて、先日も駅前で演説され、その周りに人が集まっていました。
私は政治には本当に詳しくなくて、お話を聞けた方優先で良いと思ったらそのまま投票しそうな感じですね〜。
まさに仰られますように、古代ギリシャに民主制が始まった当初からの問題そのままです^^;

ヘンデルの「サラバンド」が、今回の記事にとてもマッチしていて驚きました^^
シェイクスピアの『コリオレイナス』の朗読劇を観られたんですね。
政治って、大衆の政治に対する無責任さが政治を動かしてしまうって、なんだか怖いです。
今の政治も同じことが言えるのでしょうね。
次回の選挙、投票に悩みます。。。^^;

2014/12/10 (Wed) 08:38 | EDIT | REPLY |   

Ariane  

Re: Violetta さま

Violetta さま、こんにちは^^
コメント頂きまして、どうもありがとうございます。

私は実は、政治の話には熱くなるほうなのです^^;
それで普段、極力政治の話は避けており(笑)、今回もどうしようかと迷ったのですが、『コリオレイナス』が面白かったんですよねぇ~。
それで、やっぱり記事にしようかな、と思いました。

今回観たのは朗読劇で、私は朗読劇って初めてでした。
衣装や舞台装置なしで、役者さんたちが台本をもって、動き回るくらいなのですが、十分見応えがありました。
『コリオレイナス』はちょっと地味なお芝居かもしれないのですが、間もなくこのテーマに気がついて、内容が面白いと思いました。

選挙は、支持する政党や政治家がいないのに、無理に投票する必要はないかもしれませんねぇ^^;
やたらと「投票に行かなくてはいけない」と思い込まされている事自体が、本来、ちょっとおかしいのではないかと思います。

ヘンデルの音楽は、私はあまり聴く習慣がなく、知っている曲も少ないのですが、案外有名な曲がたくさんありそうですね。
「サラバンドってどういう曲だっけ?」と思って聴いてみましたら、どこかでよく聴く曲でした^^
ドラマチックで、シェークスピアの悲劇という話題に合う感じかな~と思って、今回はこの曲にしてみました。
ヘンデルの方が、シェークスピアより一世紀くらい後の時代の人ですけれど~。

2014/12/10 (Wed) 13:09 | EDIT | REPLY |   

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2014/12/11 (Thu) 08:49 | EDIT | REPLY |   

Ariane  

Re: 鍵コメさま

鍵コメさま、こんにちは^^
コメント及び温かいお言葉を頂きまして、どうもありがとうございます。
でも私は政治の世界になんて、参加しませんよ^^;
普段は、こうした話をすることすら、なるべく避けているくらいです。

政治家が国民のためにならない政治を行うというのは論外ですが、たとえ理想を抱いても、ほんの少しの事を変えるために、いろんな既得権益を見直さなければなりませんから、むしろ潰されてしまうことの方が多いくらいなのではないでしょうか。
情けない現実ですが、志のある政治家がいても、汚い水の中を泳いで渡らなくてはいけないということだと思います・・。

たとえば、今朝、前に横浜市長をしていた中田宏さんの政見放送が流れていた時、主人から聞いて初めて知ったのですが、中田さんは横浜の売春街を撤去したことから、根も葉もないスキャンダルをでっち上げられたようですね。
Wikipedia を見ましたら、「週刊現代による名誉棄損事件」として書かれていました。

他にも、既得権益がアンタッチャブルになっている領域が、一体どれほどあるか分かりませんし、そういう事のために、ほんのちょっとした事すらいつまでも進まないなぁ、と思うことがしばしばです。
そうした意味で、今の日本で政治家の利権は、他の利権と比較すると、相対的には大したものでないような気がしています。

2014/12/11 (Thu) 19:38 | EDIT | REPLY |   

るどるふくん  

コリオレイナスに学ぶ

  こんにちは。
世論を誘導して、衆愚政治に導くというのは、今も変わりませんね。
政治にだけにとどまらず、あらゆるところで行なわれています。
消費税が導入された時は、あれだけ反対していた殆どの野党。
しかし、今だに反対している党は ありません。
共産党ですら、増税に反対していても、消費税撤廃とは 言わなくなりました。

 あいもかわらず、具体的解決方法は まったく示さずに、増税、原発反対など ただ反対することだけ。
小・中学生でも出来そうな理想の主張です。

 小泉さんが逆に保守内野党を演じ、具体的解決法も無いまま選挙に勝ったのも、民衆の心理を付いた作戦も同じでした。
民衆とは、彼らの不満を代弁する人たちに共感を抱きます。
その結果がどうなろうが、関係ない事は、数年前の民主党圧勝劇後の民主党の政治のやり方で証明されたと思います。

 真実よりも、民衆をいかに味方につけるかだけが目的になっていますね。

 具体的中身をあげるより、Arianeさんのように こういった過去の事例を示す方が、一般の人達には 判断し易いのかも知れません。

2014/12/11 (Thu) 21:09 | EDIT | REPLY |   

Ariane  

Re: るどるふくんさん

るどるふくんさん、こんにちは^^
コメント頂きまして光栄です。
どうもありがとうございます。

昔、消費税が導入された時は贅沢税が廃止され、庶民が贅沢品を買いやすくなったのですね。
その頃、私は政治や経済の事は全然分かりませんでした。
というのも、昔実家にいた頃ずっととっていた新聞がとても悪くて、全体像が分かるように筋道を立てて説明せず、社の方針で出している結論だけを押し付けてくるような新聞だったのです。
そういう新聞やテレビのコメンテーターの話は、どうしてそうなのか意味が分からず、政治には興味がもてませんでした。

何かに反対するだけで現実的な具体策を示さない人たちは無責任だと、私も思います。
現実を無視した理想主義は、ちょっと破壊的ですね。
しかも、美しい理想を掲げながら、実際にそれを動かしているのは、大概、もっと別の思惑ですよね。
一般の善人の方たちが、簡単にそういうものに乗らないでくれると良いのですけれど・・。

今の日本は昔の西洋と違い、いわゆる政治家による煽動というより、マスコミによる煽動なんだと思いますが、小泉さんの郵政選挙と、民主党の政権交代の時は、大分煽動されている感じの盛り上がりがありましたね。
日本人は過ぎた事をすぐに忘れてしまいますが、結果がどうだったのかという事を肝に銘じて、次の事を判断しなくてはなりませんね。
多くの人たちの感情や欲、不安感等に訴えるようなマニフェストを掲げながら、無責任な政策しか考えていない党というのは、あんまりだと思います。

2014/12/11 (Thu) 23:02 | EDIT | REPLY |   

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