旅にまつわる不思議な話 / ウェールズのフォークソング "The Ash Grove"

img762 の補正


怪談は夏の風物詩ですね。

主人の体験談を載せます。

怖がりの皆さんは、閲覧ちょっと注意(かも・・・)。


               ◇


大学の春休みに、友人と二人で伊豆半島を徒歩旅行した時のことです。



私たちは下田から堂ヶ島、黄金崎を回って、内陸に入ってY温泉を目指しました。

宿の予約などはせず、足の向くまま、気の向くままの旅だったので、日暮れ時になれば宿を探すという具合。

Y温泉に着いたのは、まだ日のある4時過ぎ頃でしたが、立派な日本旅館では、飛び込みの若い客など泊める習慣はないようで、玄関先で体よく断られ、宿を探しながらブラブラと道を歩いて行きました。

すると、休憩中のタクシーがあったので、飛び込みでも泊めてもらえるような宿はないかと、運転手に訊ねると、近くに、川沿いで景色も良く、料理も良いわりに、安い宿があるとのことで、早速その宿に向かいました。



さきほどの旅館とは打って変わり、ごく庶民的な気取らない造りのその旅館で、空き部屋があるか訊ねてみたところ、その日は珍しく客が立て込んでいるようで、しばらく待たされた後、部屋の用意が出来たといって、案内されました。

その旅館は、玄関のある母屋が国道沿いにあり、自慢の露天風呂は谷底の渓流に面して作られているようです。

フロントを抜けてしばらく行くと、案内の女中は先に立って、遥か下へと延びる長い階段を下って行きます。

国道沿いの母屋に部屋が取れたとばかり思っていたので、いささか不審に思って付いて行くと、階段を三分の一ほど下った所で、右手に離れのようなものが建っており、私たちは、その離れの一番手前の部屋に案内されました。

もうすっかり日も落ち、明かりも殆どなかったので、はっきりとは見えませんでしたが、同じような部屋が二、三並んでいるようでした。



部屋で荷物を降ろし、まずはお茶でも飲んで一服と考えていましたが、暖房が入ってはいるものの、とにかく寒くてじっとしていることができません。

日中は汗ばむほどの陽気でしたが、部屋の中でコートを着るほどの寒さに私たちは辟易し、とにかく温泉で温まろうということになりました。

のんびりと湯に浸かって、十分に温まった後、部屋に帰れば、すっかり食事の用意が出来ていました。

ビールを飲みながら食事をしている内に、また寒くなり、その日は疲れていたこともあって、寝るともなしに、ごろごろしていると、隣の部屋から話し声が聞こえてきました。

こちらが風呂に行っている間に、隣にも客が入ったのでしょう。

声の様子から、小学生くらいの男の子とお父さんのようでした。

お父さんのぼそぼそ言う声と、子供がとても楽しそうにはしゃいでいる様子が伝わってきました。

一日歩いた疲れと、何とも言いようのない寒さのために、私は早々と布団にもぐりこんで、そのまま寝てしまい、その晩は友人のひどいイビキに目を覚ますこともなく、気が付けば、翌朝、部屋が明るくなっていました。



その日も10キロほどの行程を歩く予定だったので、早速朝食を取り、宿を発つことにしました。

荷物をまとめて部屋を出た時、ふと何か違和感を覚え、隣の部屋の入り口に目をやると、ぞっとするような寒気を感じました。

友人と、そちらに行ってみて、思わず二人で顔を見合わせました。

隣の部屋も、その隣も、長らく使われていない様子なのです。
全体に埃っぽく、わずかに蜘蛛の巣さえ見てとれるといった有り様で、人の出入りがあるようには見えません。

前日、友人と隣の泊り客の事は特に話題にしなかったので、私は試しに友人に、どんな人が泊まっていた様子だったか、覚えているかと聞いてみました。

友人もまた、小学生くらいの子供とお父さんの親子連れだったような気がすると答えました。
友人も、私と同じ声を聞いていたことになります。



隣の客は早い時間に宿を発ったのかもしれないと思いながらも、その部屋の様子が気になって仕方なかったので、中を確かめてみることにしました。

私たちが泊まった部屋と同じ造りであるとすれば、格子の引き戸を開けると土間があり、中の襖の奥が客室になっているはずです。

恐るおそる引き戸を開け、中に入り、色褪せた襖に手をかけ、少し動かしてみましたが、雨戸を閉め切っているせいか中は真っ暗で、黴臭い饐えたような匂いとゾッとするような冷気が漏れてくるだけです。



もうこれ以上は、と言う躊躇と、それでも中を確かめてみたいという好奇心とが綯交ぜになった興奮状態の中、私たちは意を決して襖を開いてみました。

その時の光景は今なお目に焼き付いています。

襖を開けた私たちの前には、襖すれすれの所まで一面に古いお膳がびっしりと積み上げられていたのです。

昔から使われていない部屋を所謂<布団部屋>、<物置部屋>等としておくことは珍しい事ではありませんが、目を凝らしてみると、その部屋には床から天井近くまで夥しい家具や調度が詰め込まれ、人が全く立ち入ることのできないようになっていました。

そのあまりの異様さに、とるものも取り敢えず急いで宿を後にしたことは言うまでもありません。



今、改めて思い出してみても不思議でならないのは、直接目にしていたわけでもないのに、あの晩どうしてあれほどはっきりと、隣の泊り客の事を、小学生くらいの少年と、その父親であると思ったのかという事です。

そして、その時の少年の澄んだ、鈴を転がすような楽しげな声の響きは、今でも耳の奥に残っているような気がするのです。




         img753 の補正


                       ◇


これは、主人にとって、早春の伊豆の山を親友と旅した、懐かしい思い出の一部だそうです。

今日の音楽は、ウェールズのフォークソングで、The Ash Grove です。




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12 Comments

おばさん会社員  

怖いよぉ~。
今でもその部屋そのまんま存在しているのでしょうか。
怖くて自分では行かないけど、興味ありますね。
誰か行ってみて確認してくれないかな。

2014/08/14 (Thu) 22:37 | EDIT | REPLY |   

Ariane  

Re: おばさん会社員さま

こんばんは^^
コメントありがとうございます。
お読みくださって、嬉しいです^^

今もその旅館があるとしたら、その部屋もあるのでしょうね~。
母屋の方は普通に暖かかったらしいのですが、そちらの離れに行くにつれて寒くなっていったらしいんです。

物置だとしたら、人が入って物を取れるようになっていないといけないわけですが、入れないように物が詰め込まれているのは、やっぱり異様ですよね・・・。

2014/08/14 (Thu) 23:02 | EDIT | REPLY |   

コウコ  

Arianeさん、こんばんは。
ご主人の学生の頃の、伊豆の山での体験談を拝読いたしました。
Arianeさんの語り口に惹き込まれてしまいました。

情景が目に浮かび、不思議なことがあるものですね。
>少年の澄んだ、鈴を転がすような声の響き・・・
に、最後はホットいたしました。

イギリス民謡の「The Ash Grove」は「とねりこの木立」ですよね。
私も好きな曲です。
「とねりこ」はナンジャモンジャの木ではないでしょうか。
5月に「国際バラとガーデニングショウ」の「赤毛のアンの庭」のシンボル
ツリーに使われていていましたが、実物を見たのは初めてでした。
白い花がフワフワ~と咲いて、見頃で美しかったです。

2014/08/15 (Fri) 22:15 | EDIT | REPLY |   

Ariane  

Re: コウコさん

コウコさん、こんばんは^^
いつもコメントありがとうございます。

こちらの文章、主人の語り口なのです。
主人に話してもらった通りに入力しました~。
お褒めくださって、彼も喜ぶと思います^^

The Ash Grove、コウコさんもご存知なのですね!
今回の記事は、写真も主人のものですし、この音楽も彼のリクエストです。
最近は主人の写真を UP することが多く、あまり私一人のブログではない感じです(笑)
この歌は哀愁が漂っていて、私も良いなぁと思いました。

「とねりこ」って、ナンジャモンジャの木なのですか!
ブログに写真を UP していらっしゃいましたよね。
フワフワしたお花なんですね~。

2014/08/15 (Fri) 23:23 | EDIT | REPLY |   

ジャム  

今なお覚えているとはよほど衝撃的だったのですね(^_^;)
涼しくなりましたよ~、ひぃ!

2014/08/16 (Sat) 08:58 | EDIT | REPLY |   

Ariane  

Re: ジャムさん

ジャムさん、こんにちは^^
コメントありがとうございます。
怖い話だったんですけれど、お読み頂けて嬉しいです^^

今日も暑いですが、涼しくなりましたか!
この離れに向かう時、まるで洞窟の中を下りていくように、寒くなっていったらしいんです~。
怖いことがある所って、どうして寒いんでしょうね。

2014/08/16 (Sat) 10:33 | EDIT | REPLY |   

Korva  

興味深いお話ですねぇ。
私は子供の頃、新聞配達をしていたのですが、
お盆の頃に、新聞配達をしている途中で、
もう既に明るくなっていたのですが、
目の前を白くて半透明の男性がスーっと横切って、
新聞を投函した家の中に入って行ったのを見ました。
幽霊さんも、お盆の頃には、
本当にあの世からやってくるんだなぁなんて思いましたが、
生きている人たちの常識に合わせてくれているのかも知れませんね。

2014/08/16 (Sat) 12:41 | EDIT | REPLY |   

Ariane  

Re: Korva さま

こんばんは^^
コメントありがとうございます^^

お子さんの時に新聞配達をしていらしたなんて、偉いのですね!
そして、Korva さまも霊感がおありなんですね。

私も前にホテルで、白い影が廊下を横切るのを見たことがありました。
私は影のようにしか見えませんでしたが。
でも、案外怖いものでもないですよね。

それから、こちらのブログでも前に一度書いたのですが、お彼岸にお墓参りに行った時に、お墓までタクシーに乗ってきたお爺さんの幽霊を主人が目撃したことがあったんです。
Korva さまがおっしゃるように、そのお爺さんも、生きている人たちの常識に合わせているという気がします。
お彼岸だから、お墓に行かなければいけないと思ったのでしょうね。
こういうのは、さほど怖くないですよね。

2014/08/16 (Sat) 22:18 | EDIT | REPLY |   

Hana  

Ariane さん、こんばんは♪

お盆らしいお話で・・・。
恐いんですけど、ついつい引き込まれて読んじゃうんですよね ^^

我が家も、気の向くままドライブし、夕方に宿を探すタイプ。
気を付けます・・・ ^^;

10年ぐらい前の話。
ちょっと高めの旅館なのに、インターネットで予約したら
お手軽価格になってるぅ~!と、女4人で泊まりに行ったら・・・
出ましたよ!
青白い透けた手も見えたし、女性の笑声も聞こえちゃいました・・・。
宿泊代の安さに惹かれたら危険な時もありますね・・・ ^^;

2014/08/18 (Mon) 20:56 | EDIT | REPLY |   

Ariane  

Re: Hana さん

Hana さん、こんばんは♪
いつもコメントありがとうございます。
お読みくださって嬉しいです^^

Hana さんのお宅も、ホテルの予約をしないで、旅行に出られるのですか!
私は日本ではしたことがないけれど・・・そういえば、外国ではありました。
やっぱり、変な部屋に泊まりかけたことがありましたよ~。
何か起こったわけではありませんが、「ここは、どうしても居られない」と思って、そのホテルはやめたんです。
ホテル代捨てて、ですよ(涙)。

Hana さんも怖い体験をしていらっしゃるんですね!
ホテルも怖いけれど、事故物件っていうのも怖いですよね。
友だちが引っ越し先を探すのに付き合ったりしていると、やっぱり変に安い所で、「ここはヤバいでしょ!」っていう所、ありますねぇ~。

2014/08/18 (Mon) 23:10 | EDIT | REPLY |   

Plateau  

こんにちは

コメントをいただき有り難うございました

新しい記事にコメ欄がなかったので
いくつか記事を拝見してこちらに

私は あまり霊的な体験は無いんですが
家族 特に家内は 感じることも多いらしく
黒い影として 見えたり
人についた 霊(生きてるのも死んでるのもあるそうです)などが見えるらしく
私は 脳天気にアンテナを広げて歩いているかのごとく
拾ってくるそうです

例えば 国道脇に 事故のあとで花が添えられていたりするのをみると
瞬間的に 拾ってしまうらしいんです
いつかね あまりに首に周りがひどくて 頭が重い
家に帰ると 家内は寝ていたのですが
首が重くて 肩が張ってしかたがないというと

「仏壇でお線香上げてごらん」って

言われたとおり 仏壇にお線香をあげて 手を合わせると
その瞬間 首から肩にかけて 重くのしかかっていたものが
す~っと 離れていって軽くなりました

他にもね 色々ありますが
世の中見えないものが 見える
誰も感じないものを 感じてしまう方がいるんですね

私は 自分自身 目に見えない 何かに守られてる気がします

守護霊なのかもしれない ご先祖様かもしれない

だから家族のつながりや ”縁”を大切にしています


とりとめのない話をしてしまいました

これからもよろしくお願い致します^^

2015/05/10 (Sun) 09:32 | EDIT | REPLY |   

Ariane  

Re: Plateau さん

Plateau さん、こんにちは^^
ご丁寧なコメント、ありがとうございます。
嬉しいです♪

奥様は、霊能者とお呼びして良いような霊感の持ち主ですね。
うちの夫のようにたまたま見えたり聞こえたりする人はいますし、私も感じることはありますが、それが何なのか、どういう経緯でそうした事になっているのか、といった事までは分からないんです。
霊感はわりと遺伝しますから、奥様の血縁の方の中には霊感の強い方が、結構いらっしゃるのではないでしょうか。

Plateau さんは、よく「拾って」来られる方なのですね。
写真を撮る方は、つい目に映るものに、心を向けてしまったりするかもしれませんね。
前に私の母がお墓参りに行った時に、余所のお墓の墓標を見ながら、「この方々はご夫婦で、同じ年に亡くなっているんだわ・・」なんて言っていましたら、帰宅した後、頭痛で寝込まなければならなくなったことがありました。
私も若い頃、「まるで吸い取り紙だ」と言われたほど、よく憑依されていた時期がありました。
そうしたこともあって、今ではちょっとヤバそうな所は、気を引き締めて通るようになりました。

私も、何か自分を守ってくれている力のようなものは感じますし、ご縁というものもありそうな気がして、そうしたものに感謝しています。

これからもどうぞ宜しくお願い致します^^

2015/05/10 (Sun) 12:36 | EDIT | REPLY |   

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